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2013年4月30日 (火)

リンカーン

第85回アカデミー賞で12部門にノミネートされた、スティーブン・スピルバーグ監督の映画『リンカーン』が全国で上映されています。

ほとんどの日本人にとって、リンカーンとの初めての出会いは、社会の授業で南北戦争について教わったときだったのではないでしょうか。そして、そのとき、例の「人民の、人民による、人民のための政治」というゲティスバーグ演説の一節についても耳にしたはずです。

民主政治の意味を最も簡潔に表現したとされるこの言葉を聞いたとき、皆さんはちょっとした疑問を持ちませんでしたか。「人民の政治」と「人民による政治」、どちらも「人民が政治の主役である」という意味で、同じなのではないかという疑問です。

“government  of  the  people,  by  the  people,  for  the  people”の“of”が 日本語の「の」に当たっているわけですが、「の」にも様々な意味があります。たとえば、「月の明るい夜」の「の」は「が」に置き換えられますし、「登るのは困難だ」の「の」は「こと」に置き換えられます。「新大陸の発見」といったら「新大陸を発見した」という意味です。

ここでの“of”は、3つめの例にあげた「を」に相当します。というのは、英語が得意な方ならご存じだと思いますが、名詞構文のパターンの1つに、「他動詞派生の名詞+of+名詞」ときたら「名詞を~すること」と訳すというのがあるからです。

“government  of  the  people,  by  the  people,  for  the  people”は「人民の、人民による、人民のための政治」ではなく、「人民が、人民のために、人民自らを統治すること」と解した方がしっくりきますし、より民主政治の本質を表しているといえるのではないでしょうか。

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コメント

アメリカ人で、government of the peopleを目的格のように解釈する人は、私の見聞したところでは、極めて少数です。拙著「“Government of the people, by the people, for the people,”とは何か?」(2013.11.19. 近代文芸社刊、全780頁)をご参照頂ければ幸いです。
マーク・ピーターセンも、丸谷才一(目的格論者)を念頭に置いて、「英語圏で141年以上も続いてきた常識的受け止め方が引っ繰り返される、リンカーンも驚くにちがいない、突拍子もない文法的解釈」と断じています。尤も、私はピーターセンのこの点の判断には賛成ですが、その他の点については見解を異にします。

(岩井)
小林様、コメントありがとうございます。
この部分の解釈については、識者の間でも意見が分かれているようですね。
私の意見は記事にある通りですが、いずれにしましても、「文法的にどちらが正しいか」ではなく、ゲティスバーグ演説を一つのきっかけにして、民主政治についての議論が深まればそれでよいのではないでしょうか。

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